菌根菌とPBのお話

菌根菌とそのパートナー細菌の恵み

菌根菌は有益な糸状菌(力ビ)の1つであり、マツタケ、ショウ口、トリュフ等のキノコ類も菌根菌です。それらの中でも、4億6干万年前から現在まで生きているアーバスキュラー菌根菌(AMF)はほぼ全ての植物と共生するので、菌糸で土中に強大な菌糸ネットワークを形成し、効率的に土中の養水分を植物に運んだり、植物同士の養水分の分配等に貢献しています。それゆえ、AMFは農業生産、環境保全等において特に重要な菌根菌なのです。

また、菌根菌には強い昧方がいます。ごれが菌根菌の周辺や内部に生息するパートナー細菌(PB)です。これらの有益細菌は菌根菌の生長を助けるとともに、植物の病害虫防除効果、窒素固定能、リン溶解能等を持ち、植物の働きを助けます。

その上、このPBは植物の生長に有益な効果を与えるだけでなく、私たちの健康や公衆衛生等にも貢献していることが分かり始めてきました。

真珠のような菌根菌

健全な土壌には凹凸な土壌粒子や有機物小片とともに、真珠のように綺麗な菌根菌胞子が生息しています。

菌根菌とそのパートナー細菌を利用した、安心・安全で持続可能な作物栽培

1 微生物資材を利用する目的として

微生物資材を利用する目的は,山や森にある植物が,人間が手を加えなくても自然に育っているように,「植物が自然に育つ仕組み」を生かし,化学肥料や化学合成農薬を必要最低限に減らして,あるいは用いず、環境にやさしく,安心・安全な作物を生産することです。

「植物が自然に育つ仕組み」には植物と微生物の関係が大事になります。土中に存在する微生物の一つである菌根菌,特にアーバスキュラー菌根菌(AMF)(写真1)は,約4億6千万年前から地球上に存在し,ほぼ全ての植物の根に侵入し,植物が光合成をして得る糖などの栄養を受け取って生存しています。その見返りとして,菌根菌は植物の根が届かないところまで菌糸を伸ばし,パートナー細菌(写真2)と共働して,植物が吸収できない土中の栄養素を分解し菌糸内に取り込み(吸収して),植物に運搬しています。つまり,菌根菌と植物はお互いがお互いを助け合う「共生」という関係で生きています。

Glomus clarum の胞子
AMFの内製菌によってコロニー化された Gi. margarita胞子および菌糸の新型走査型電子顕微鏡画像

2 菌根菌とそのパートナー細菌について

菌根菌は,マメ科植物の根に感染する根粒細菌と同じように,植物の根に感染し植物と共生し,植物の生長などを助ける非常に重要な土壌微生物です。この菌根菌にはいくつかの種類が存在しますが,その中でもAMFは,根粒細菌のようにマメ科の植物だけに共生するのではなく,ほぼ全ての植物と共生しますので,非常に汎用性の高い共生微生物です。ちなみに,AMFと共生しにくいと言われているアブラナ科(ダイコンなど)やアカザ科(ホウレンソウなど)作物でさえも,これらの作物が環境ストレスを受けたときには感染し,これらの作物の生育を助けることが知られています。

またAMFには,その胞子内や胞子表面にパートナー細菌(AMFの働きを助ける細菌であるバチルス菌,シュードモナス菌など)が生息しています。これらの細菌は,空気中のチッソを固定する能力,土中の難溶性や不溶性のリンを水に溶解できる能力を持っていますので,肥料を削減できます。また,これらは,フザリウム菌,紋羽病菌,ピシウム菌などの土壌病原菌の生長を抑制する作用や,ガ類などの害虫を殺虫する能力も持っていますので,化学合成農薬を削減あるいは不要にできます。なお,菌根菌は,センチュウを補食する力がありますので,連作障害の原因の一つであるセンチュウの害を少なくすることができます。

さらに興味深いこととして,AMFは植物を選ばないことから,ある植物の根に感染すると,他の植物の根へも菌糸をつぎつぎとつなげますので,土中に巨大なAMF菌糸ネッワークができあがります。この巨大な菌糸ネットワーク内に施肥や潅水をするとAMFはそれらを効果的に良く吸収し分配してくれるので,わずかな施肥量や潅水量で十分となるだけでなく,養水分なども分配してくれるので,作物の生育も均一化してきます。

このような様々な有益な効力をもつAMFとそのパートナー細菌ですが,施肥,特にリン酸肥料を大量に施用すると,菌根菌は作物と共生しようとしなくなります。また,殺菌剤などの化学合成農薬の大量施用は菌根菌やパートナー細菌を死滅させます。それゆえ,化学肥料や化学合成農薬の大量使用は慎むべきです。

3 今,なぜAMFへの注目があつまっているのですか

この理由は,AMFとそのパートナー細菌を活用することによって,化学肥料や化学合成農薬を不要あるいは大幅に削減でき,安心・安全な作物を消費者に提供できるからです。また,自然環境の保全にも大いに貢献できるからです。さらには,農業従事者にとっても化学合成農薬による被害をなくするとともに,生産コストを削減することも可能となってくるからです。

しかし,人間はこれまで菌根菌の働きを長い間見落としてきました。この原因の一つとして,AMFの菌糸がほぼ透明なので,外生菌根菌の菌糸のように,白くて肉眼で容易に観察されるものと比べて,AMFが根に感染しているのかを容易に判別することが難しかったことにあります。

例えば,カンキツ樹に菌根が形成されることが発見されたのは今世紀初頭でありますが,その後,菌根の働きや,この形成に関与する菌根菌,AMFの生理・生態的特性についての調査・研究はほとんど行われていませんでした。AMFが植物の生育に重要な役割を担っていることが明らかになったのはわずか40年前のことなのです。現在では農林業におけるさまざまの分野で,AMFの基礎研究や応用研究がさかんに行われており,それらに関する研究論文数も最近とみに増えてきています。特に興味深いのは,開発途上国の研究者による発表が増えてきている点です。これらの国では肥料を買えない農家が多く,また土壌中のAMF胞子数がきわめて少ないため,土地生産性が劣っています。そのため,AMFを「生物肥料」として活用する研究がさかんに行われ始めています。また開発途上国の乾燥地・半乾燥地では,AMF接種樹木による環境緑化技術が大きな成果をもたらしています。

先進国では,限りある資源を有効に利用し(特に,リン資源の枯渇が間近であり,最近,リン肥料の価格が高騰し始めています),作物を生産する技術や,化学合成農薬を用いない,安心・安全な食糧生産技術,つまり安心・安全で持続可能な食糧生産技術を早急に作り上げていかなければなりません。その方法として,菌根菌とそのパートナー細菌を活用する食糧生産技術は極めて有効です。

しかし,現状の栽培技術や環境保全技術はこれらの菌の役割を相変わらず無視,あるいは阻害する手法であると言えるでしょう。特に,化学肥料や化学合成農薬の使いすぎは非常に深刻です。これらの化学物質の大量施用はAMFやそのパートナー微生物の活動を著しく阻害し,致死させるからである。事実,これらを大量に使用しているわが国の耕作地では,AMFの生息がほとんどみられません。私たち人間でさえも栄養剤や薬の使いすぎには注意をしているのに,なぜ植物の場合にはこの問題を踏まえた改善ができないのでしょうか。この改善への取り組みなくしては,私たちの生存は危ないと言わざるを得ません。

また近い将来,私たちは石油などの化石燃料やリン鉱石などの枯渇という未曾有の試練に直面します。硫安などの窒素肥料は化石燃料を大量に用いて大気中の窒素から製造されており,過リン酸石灰,リン安などのリン酸肥料はリン鉱石から作られているからです。しかし,自然はこの試練に耐えられる恵みを私たちに提供してくれています。それがAMFとそのパートナー細菌です。

詳細については,小著(石井孝昭「菌根菌の働きと使い方」農文協)を一読ください。