菌根菌とそのパートナー細菌(PB)

菌根菌とそのパートナー細菌(PB)の上手な使い方

野山の草木が,人間が手を加えなくても自然に育っているのは地球上のほぼ全ての植物と共生関係を築いている菌根菌とこの菌の胞子内外で共存しお互いに助け合っているパートナー細菌(PB)が生息しているからです。しかし,農地ではこれらの有益微生物が全く,あるいはほとんど生息していないのが現状です。この原因は,化学合成農薬の大量使用と化学肥料の大量施肥によって引き起こされたのです。

このような農地での有機・自然栽培は極めて難しく,作物の生育が不良で,病害虫の発生も多いです。それゆえ,農学者や農学研究者の中には「わが国のような温暖多雨な環境では無機養分の流亡が多くて,病害虫による被害が起こりやすいので,有機・自然栽培では十分な収量が得られない。化学合成農薬や化学肥料がなくては安定した収量が得られない。」と言う方が多いです。

確かに,わが国では無機養分の中で窒素,特に硝酸態窒素成分が流亡しやすく,土壌が酸性化しやすいので,定期的な窒素の補給や,元肥としてのCaやMgの施用が必要となってきます。しかし,リンについてはわが国の農地では大量のリンを施しても作物にリンの過剰障害が出ないことから,これまで過剰にリンを施してきたので,利用できていないリンが有り余る量が残っており,今後,四半世紀はリンの施肥が不要な状態にあります。またカリは風化した花崗岩土壌などでは長石からカリが溶出されているので,土質によって,施肥量を考える必要があります。特に,カリの過剰摂取は腎臓病を誘発しやすく,透析をされている方にとっては野菜などの農産物中のカリの多さが深刻な問題となっています。同時に,地方自治体でも透析患者の医療費の半分近くを賄わなければならないことから,透析患者が多い地域では地方自治体経費の大きな負担となっています。硫黄(わが国は火山国で豊富)や微量要素については,有機物を施していれば,普通,有機物中に含まれる量で十分です。

一方,病害虫の被害において,菌根菌は植物の養水分吸収を促進し,活発な光合成を行い,丈夫な植物体が作られますので,菌根共生植物は病害虫に対する抵抗性を獲得します。また菌根菌は連作障害の一要因であるセンチュウをその菌糸で絡めて消化することが明らかになっています。

PBは,現在,深刻な問題となっているフザリウム,リゾクトニア,ピシウム,モンパ病菌などの土壌病原菌の生長を顕著に,かつ持続的に阻害するので,現在,土壌消毒剤として広く使用されている,第1次世界大戦の毒ガス,つまりクロルピクリンを不使用にできます。このクロルピクリンで毎年,数人が亡くなられていますので,早急にこの薬剤の使用禁止が望まれます。

また,PBはガ類を駆除し,アブラムシ,オンシツコナジラミ,スリップス,ハダニなどの害虫を忌避する傾向がみられます。

さらには,PBは有機物の分解を促進する能力を持っていますので,堆肥作製に有効ですし,トイレなどの悪臭軽減や,ハエ,カなどを削減する能力を持っていますので,公衆衛生に活用できます。また,人畜の健康改善や維持にとっても非常に有益な微生物ですので,安心・安全に使用できます。

このように,現状のわが国の農地ではこれまでの化学合成農薬や化学肥料の大量使用によって,養水分吸収に関与する微生物,特に菌根菌や,窒素固定能やリン溶解能を持つPBがほとんど,あるいは生息していないので,これらの有益微生物を強制的に施していかなければ,現状の農地では有機・自然栽培は成り立たない状況にあるのです。つまり,「有機・自然栽培の成否は菌根菌とそのPBの有無にかかっている」のです。

財団の菌根菌資材(政令指定 活性VA菌根菌土壌改良資材)には,菌根菌の胞子とその胞子周辺や胞子内に生息する有益なPBが数多く含まれています。これらの微生物を用いることによって,植物の養水分吸収が良好となり,植物の生長が旺盛になるとともに,病害虫抵抗性や環境ストレス耐性の付与などの効果が期待されます。それゆえ,菌根菌は「生物肥料」,PBは「生物肥料・生物農薬」と言えます。そして,これらの微生物を積極的に活用することによって,化学肥料や化学合成農薬を削減あるいは不要にすること(安心・安全で持続可能な作物栽培)が可能となります。

しかし,本資材は生きた微生物を含む資材ですので,使い方や保管法に注意を払わなければ,折角の効能を得られなくなります。特に,以下の点について注意してください。

  • 1.有効態リン酸の含有率の高い土壌での使用や,リン酸含量の多い化学肥料や有機肥料の大量施用は,効果の発現が期待できないことがあります。そこで,財団の菌根菌資材を使うのであれば,むしろリンの施肥は控えたほうが良いです。,

    リンを多量に含む鶏糞などを用いた有機肥料や化学肥料は不使用が望ましいです。特に,鶏糞には抗生物質,ホルモン剤,塩分などが大量に含まれていますので,注意が必要です。ただ,リンを施したいのであれば,わが国の農地では大量のリンが残存していますので,ほんのわずか(例えば,1-2 kg/10 a・年)の肥料で十分です。このように,本菌根菌資材を使用すれば,驚くほど,大幅にリンの施肥量を削減できるのです。

  • 2.ダイコンなどのアブラナ科,ホウレンソウなどのアカザ科の作物の根には菌根菌が共生せず,効果が発現しないと言われています。しかし,財団の菌根菌資材ではPBが入っていますので,これらの植物でも菌根形成がみられます。さらに,財団指定のPB入りの有機液肥を積極的に活用するとさらに生育が良好になります。

    これらの植物は,「共生」という,いくらかの負担を嫌い,生育に問題がないときは菌根菌を感染させたがりません。しかし,自然環境下ではこれらの植物もさまざまなストレスを受けますので,ストレス下ではちゃっかりと菌根共生を築き,菌根菌に助けてもらっています。私たちの社会でもこのような人がいますよね。

  • 3. 化学合成農薬は使用しない。また,財団の菌根菌資材を使うのであれば,化学肥料を不使用にするか,大幅に削減してください。

    特に,化学合成農薬は人畜や環境に悪影響を及ぼすので,使用しないようにしましょう。

  • 4.財団の菌根菌資材の使用にあたっては,1苗あるいは1種子に対して,胞子2-3個あれば十分ですが,接種胞子数が多くても植物の生育には問題がありませんので,胞子数に余裕があるときは多めに接種するとより安定した効果が得られます。

    本資材100 g(コーヒーかす)には約1万個という多数の胞子(約100個/g)が含まれていますので,油かす,くん炭,コーヒーかすなどで適切に希釈して用いてください。

  • 5.財団の菌根菌資材は,水がかからない冷暗所(20℃以下)で保管しますが,4℃の冷蔵庫でも可能であり,長期間の保管ができます。しかし,冷凍庫には保管しないでください。

    冷蔵庫内で菌根菌胞子を保管した場合には,胞子が休眠していますので,使用にあたっては,休眠打破のため,室温下で数日間おいてから使用してください。

  • 6.財団の菌根菌資材が乾いていた場合,わずかに湿りを感じる程度に水(水道水も使えますが,塩素によって菌根菌やPBがダメージを受けますので,滅菌水や蒸留水の方が良いです)を加えてください。

    そして,開封後は早めに全量を使用してください。

財団の「菌根菌とその仲間たち」の使用例

  • (種物の場合)

    Horii et al. (2009)は,植物が根や種皮からトリプトファンダイマーという菌根菌生長促進物質を溶出して,菌根菌を引き寄せる働きがあることを明らかにしています。そこで,播種時に菌根菌資材を種床に接種することが好ましいです。播種床の培土の容量を把握して,AMF胞子約1000個(接種源10 g)/L 播種用培土になるように,本資材を加えて混合してください。

  • (挿し木の場合)

    挿し木用培土に,AMF胞子約1000個(接種源10 g)/L 挿し木用培土になるように,本資材を加えて混合してください。

  • (鉢物の場合)

    鉢物用培土に,AMF胞子約100-200個(接種源10-20 g)/L 鉢物用培土になるように,本資材を加えて混合して,個々の鉢,プランターなどに入れて使用してください。

  • (圃場の場合)

    10 a当たり本菌根菌資材2-3袋(AMF胞子約20000-30000個)を油かす,くん炭,コーヒーかすなどで適度に希釈して,作物周辺に撒いてください。なお,撒いたAMF胞子は降雨や潅水で土中内に入っていき,根に感染します。

「菌根菌とその仲間たち」

財団のPB入りの有機液肥の使用例

  • ①EC計を用いて,塩素を含まない水で,0.4-0.6 mS/cmまでに希釈

    ②EC計がない場合は,塩素を含まない水で,200-300倍に希釈

    有機液肥の散布で葉色が良好になり、生育が旺盛になってくると、EC 0.2-0.3 mS/cm、あるいは500倍程度に薄めて散布しても良いです。

    この希釈液を葉面散布することが望ましいです。その理由は,肥料成分を葉から効果的に植物に供給できること,PBによる病害虫の生長阻害効果や忌避効果が期待されることなどが挙げられるからです。それゆえ,PB入りの有機液肥の散布回数は生育期間中2-3回/月の頻度で葉面散布することが好ましいです。散布作業を軽減するためには自動化も考えてみてください。また,PB入り有機液肥を継続して散布すると,1, 2年性作物では3,4作後,果樹などの永年性作物では3-4年経過後,PBが園地あるいは施設内に定着して増殖してきますので,病害虫の発生が少なくなって,散布回数を減らすことができます。

PB入りの有機液肥

財団の植物オイル粉末(植物保護材)の使用例

  • 菌根菌とパートナー細菌等が生息している植物は,病害虫に対して強くなります。ただ,これらの有益微生物で対処できにくい場合があるときは,この植物オイル粉末を併用すると良いです。この植物オイル粉末は,シクロデキストリンという環状オリゴ糖に,人畜に無害な植物オイルを包接させて,粉末化していますので,運搬や保管が容易であるとともに,油を水に可溶化させるための化学合成乳化剤を一切用いていないので,非常に安心・安全な資材です。

    使用方法として、

    ①本資材を、塩素を含まない水で、150-200倍に希釈して噴霧する方法と

    ②本資材を、少量の水で溶かして、幹などに塗布した後、ガムテープで巻いておく方法

    があります。

    本資材は、すてきな芳香をもつ無害な素材で作られていますので,ハウス内では心地良く散布作業ができます。また,害虫を忌避したり病気を抑制する力を利用して,植物の生長を保護する働きがあります。さらには,トイレ,畜舎などの消臭剤としても有効です。

植物オイル粉末

菌根菌とそのパートナー細菌(PB)の恵み

菌根菌は有益な糸状菌(力ビ)の1つであり、マツタケ、ショウ口、トリュフ等のキノコ類も菌根菌です。それらの中でも、4億6干万年前から現在まで生きているアーバスキュラー菌根菌(AMF)はほぼ全ての植物と共生するので、菌糸で土中に強大な菌糸ネットワークを形成し、効率的に土中の養水分を植物に運んだり、植物同士の養水分の分配等に貢献しています。それゆえ、AMFは農業生産、環境保全等において特に重要な菌根菌なのです。

また、菌根菌には強い昧方がいます。ごれが菌根菌の周辺や内部に生息するパートナー細菌(PB)です。これらの有益細菌は菌根菌の生長を助けるとともに、植物の病害虫防除効果、窒素固定能、リン溶解能等を持ち、植物の働きを助けます。

その上、このPBは植物の生長に有益な効果を与えるだけでなく、私たちの健康や公衆衛生等にも貢献していることが分かり始めてきました。

真珠のような菌根菌

健全な土壌には凹凸な土壌粒子や有機物小片とともに、真珠のように綺麗な菌根菌胞子が生息しています。

菌根菌とそのパートナー細菌(PB)を利用した、安心・安全で持続可能な作物栽培

1 微生物資材を利用する目的として

微生物資材を利用する目的は,山や森にある植物が,人間が手を加えなくても自然に育っているように,「植物が自然に育つ仕組み」を生かし,化学肥料や化学合成農薬を必要最低限に減らして,あるいは用いず、環境にやさしく,安心・安全な作物を生産することです。

「植物が自然に育つ仕組み」には植物と微生物の関係が大事になります。土中に存在する微生物の一つである菌根菌,特にアーバスキュラー菌根菌(AMF)(写真1)は,約4億6千万年前から地球上に存在し,ほぼ全ての植物の根に侵入し,植物が光合成をして得る糖などの栄養を受け取って生存しています。その見返りとして,菌根菌は植物の根が届かないところまで菌糸を伸ばし,パートナー細菌(写真2)と共働して,植物が吸収できない土中の栄養素を分解し菌糸内に取り込み(吸収して),植物に運搬しています。つまり,菌根菌と植物はお互いがお互いを助け合う「共生」という関係で生きています。

Glomus clarum の胞子
AMFの内製菌によってコロニー化された Gi. margarita胞子および菌糸の新型走査型電子顕微鏡画像

2 菌根菌とそのパートナー細菌(PB)について

菌根菌は,マメ科植物の根に感染する根粒細菌と同じように,植物の根に感染し植物と共生し,植物の生長などを助ける非常に重要な土壌微生物です。この菌根菌にはいくつかの種類が存在しますが,その中でもAMFは,根粒細菌のようにマメ科の植物だけに共生するのではなく,ほぼ全ての植物と共生しますので,非常に汎用性の高い共生微生物です。ちなみに,AMFと共生しにくいと言われているアブラナ科(ダイコンなど)やアカザ科(ホウレンソウなど)作物でさえも,これらの作物が環境ストレスを受けたときには感染し,これらの作物の生育を助けることが知られています。

またAMFには,その胞子内や胞子表面にパートナー細菌(AMFの働きを助ける細菌であるバチルス菌,シュードモナス菌など)が生息しています。これらの細菌は,空気中のチッソを固定する能力,土中の難溶性や不溶性のリンを水に溶解できる能力を持っていますので,肥料を削減できます。また,これらは,フザリウム菌,紋羽病菌,ピシウム菌などの土壌病原菌の生長を抑制する作用や,ガ類などの害虫を殺虫する能力も持っていますので,化学合成農薬を削減あるいは不要にできます。なお,菌根菌は,センチュウを補食する力がありますので,連作障害の原因の一つであるセンチュウの害を少なくすることができます。

さらに興味深いこととして,AMFは植物を選ばないことから,ある植物の根に感染すると,他の植物の根へも菌糸をつぎつぎとつなげますので,土中に巨大なAMF菌糸ネッワークができあがります。この巨大な菌糸ネットワーク内に施肥や潅水をするとAMFはそれらを効果的に良く吸収し分配してくれるので,わずかな施肥量や潅水量で十分となるだけでなく,養水分なども分配してくれるので,作物の生育も均一化してきます。

このような様々な有益な効力をもつAMFとそのパートナー細菌ですが,施肥,特にリン酸肥料を大量に施用すると,菌根菌は作物と共生しようとしなくなります。また,殺菌剤などの化学合成農薬の大量施用は菌根菌やパートナー細菌を死滅させます。それゆえ,化学肥料や化学合成農薬の大量使用は慎むべきです。

3 今,なぜAMFへの注目があつまっているのですか

この理由は,AMFとそのパートナー細菌を活用することによって,化学肥料や化学合成農薬を不要あるいは大幅に削減でき,安心・安全な作物を消費者に提供できるからです。また,自然環境の保全にも大いに貢献できるからです。さらには,農業従事者にとっても化学合成農薬による被害をなくするとともに,生産コストを削減することも可能となってくるからです。

しかし,人間はこれまで菌根菌の働きを長い間見落としてきました。この原因の一つとして,AMFの菌糸がほぼ透明なので,外生菌根菌の菌糸のように,白くて肉眼で容易に観察されるものと比べて,AMFが根に感染しているのかを容易に判別することが難しかったことにあります。

例えば,カンキツ樹に菌根が形成されることが発見されたのは今世紀初頭でありますが,その後,菌根の働きや,この形成に関与する菌根菌,AMFの生理・生態的特性についての調査・研究はほとんど行われていませんでした。AMFが植物の生育に重要な役割を担っていることが明らかになったのはわずか40年前のことなのです。現在では農林業におけるさまざまの分野で,AMFの基礎研究や応用研究がさかんに行われており,それらに関する研究論文数も最近とみに増えてきています。特に興味深いのは,開発途上国の研究者による発表が増えてきている点です。これらの国では肥料を買えない農家が多く,また土壌中のAMF胞子数がきわめて少ないため,土地生産性が劣っています。そのため,AMFを「生物肥料」として活用する研究がさかんに行われ始めています。また開発途上国の乾燥地・半乾燥地では,AMF接種樹木による環境緑化技術が大きな成果をもたらしています。

先進国では,限りある資源を有効に利用し(特に,リン資源の枯渇が間近であり,最近,リン肥料の価格が高騰し始めています),作物を生産する技術や,化学合成農薬を用いない,安心・安全な食糧生産技術,つまり安心・安全で持続可能な食糧生産技術を早急に作り上げていかなければなりません。その方法として,菌根菌とそのパートナー細菌を活用する食糧生産技術は極めて有効です。

しかし,現状の栽培技術や環境保全技術はこれらの菌の役割を相変わらず無視,あるいは阻害する手法であると言えるでしょう。特に,化学肥料や化学合成農薬の使いすぎは非常に深刻です。これらの化学物質の大量施用はAMFやそのパートナー微生物の活動を著しく阻害し,致死させるからである。事実,これらを大量に使用しているわが国の耕作地では,AMFの生息がほとんどみられません。私たち人間でさえも栄養剤や薬の使いすぎには注意をしているのに,なぜ植物の場合にはこの問題を踏まえた改善ができないのでしょうか。この改善への取り組みなくしては,私たちの生存は危ないと言わざるを得ません。

また近い将来,私たちは石油などの化石燃料やリン鉱石などの枯渇という未曾有の試練に直面します。硫安などの窒素肥料は化石燃料を大量に用いて大気中の窒素から製造されており,過リン酸石灰,リン安などのリン酸肥料はリン鉱石から作られているからです。しかし,自然はこの試練に耐えられる恵みを私たちに提供してくれています。それがAMFとそのパートナー細菌です。

詳細については,小著(石井孝昭「菌根菌の働きと使い方」農文協)を一読ください。