財団の新しい取り組み

菌根菌とその仲間たちで,安心・安全で持続可能な有機緑化技術によるクロマツ枯れ防止およびクロマツ林の再生、並びにショウロの生産

マツ枯れ防除のために,化学合成農薬の空中散布が行われていますが,その被害は一向に減少していません。その原因は、これらのマツ林でショウロやアーバスキュラー菌根菌(AMF)のような菌根菌が生息できなくなったからです。

そこで,私たちは化学合成農薬を使用しない技術、つまり菌根菌とそのパートナー細菌(PB)およびボーベリア菌などの有益微生物などを活用できる技術を開発し、中部電力の協力を得て林地の復活を図っています。この技術は,マツ枯れ以外にも,ウメ,サクラなどのバラ科樹木の衰弱や枯死にも有効であることをすでに明らかにしています。

ところで、マツ枯れはマツノザイセンチュウによる被害ですが、このマツノザイセンチュウは北米からの侵入害虫です。そのためか、わが国のクロマツやアカマツはこのセンチュウに対する抵抗性の獲得が難しかったのかもしれません。

しかし、菌根菌が活発に活動しやすいマツ林にして、マツの根に菌根菌が共生しやすい環境にしていくと、菌根菌は菌糸で根を保護するとともに、この菌糸はセンチュウを絡めて消化する(殺す)ことが知られていますので、センチュウによる被害をなくすることができると考えています。ちなみに、ショウロやマツタケが収穫できなくなったマツ林ではマツ枯れが始まります。

長年、ショウロやマツタケ、ならびにAMFという菌根菌が根からのセンチュウの侵入を防いでいることが無視されてきましたので、マツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリの防除一辺倒になって、現在も環境に大きな負荷を与える化学合成農薬の空中散布が行われています。

そこで、私たちはショウロとAMFという菌根菌とそのPBなどの有益微生物などを活用し、マツノザイセンチュウおよびマツノマダラカミキリを有機的に防除します。例えば、主な防除法は以下に示す通りです。

  • 1)菌根菌とそのPBを用いて、マツノザイセンチュウおよびマツノマダラカミキリに対して丈夫な樹にします。
  • 2)菌根菌によって、根からのマツノザイセンチュウを駆除します。
  • 3)PBによって、マツノザイセンチュウおよびマツノマダラカミキリを駆除します。
  • 4)菌根菌と相性の良いボーベリア菌を用いて、マツノマダラカミキリを駆除します。
  • 5)天然の植物オイルを使って、マツノマダラカミキリを駆除あるいは忌避します。

マツ枯れを防ぐと様々な自然の恵みを得ることができます。クロマツにはショウロ、アカマツにはマツタケという外生菌根菌とともに、AMFが同時感染しますので、両菌根菌とマツとの「共生」という自然からの贈り物を得ることができます。また、ショウロやマツタケは高級食材ですので、これらキノコの安定生産技術を定着させて地域産業に貢献することもできます。