2022年度の事業実績

日本菌根菌財団の取り組み

私たち財団は、SDGsの17の目標を踏まえて、「菌根菌とそのパートナー細菌を活用した、 安心・安全で持続可能な作物生産技術および緑化技術による新たな社会の構築」で社会貢献を図っています。 特に、農村社会の食料、電力等の自給自足を促すため、この「菌根菌農法」で不安で危険な慣行栽培技術を払拭して、日本桐「 ジャパロニア」の植栽を進め、カーボン取引や、家具材、建築材、バイオマス発電等への活用・販売、余剰電力の売電等を推進することで収入源を確保し、農村社会を魅力のある場とするとともに、都市部とのつながりを密にして交流をさかんにさせたいと思っています 。

ちなみに、桐は樹木ではなく、園芸作物特用樹ですので、農地に植栽できることから、荒廃農地の解消にも役立ちます。さらに重要なこととして、菌根菌農法による作物生産は、菌根菌によるCO2固定量が慣行農法と比べて、およそ15倍から2倍近く増大するとともに、大量のエネルギーを使って生産されている化学肥料、化学合成農薬等の資材を使いませんので、カーボン取引では大きなメリットになります。

1 趣意

化学合成農薬や化学肥料の大量使用によって環境汚染や人畜への悪影響が深刻な問題となり、消費者が求める安心・安全で持続可能な食糧の生産技術を早急に構築していくことが望まれています。

私たちは、地球環境の保全および健康で豊かな食生活実現のため、4億6千万年前から植物と持ちつ持たれつの関係、つまり共生を築き上げて、現在の植物の生育にも多大な貢献をしている菌根菌とその胞子内や周辺で、菌根菌の生長促進、窒素固定能、リン溶解能、病虫害抵抗性等を有するパートナー細菌が生息し、協働して、植物の生長を助けていることに着目し、研究と普及啓発を行ってきました。

そこで、私たちはこの技術・研究の成果を普及するため、「一般財団法人日本菌根菌財団」を設立して、菌根菌とそのパートナー細菌等を活用した、安心・安全で持続可能な作物生産および緑化(secure and sustainable crop production and greening)を定着させるよう、真の緑の革命を目指しています。

2 菌根菌とそのパートナー細菌の恵み

菌根菌は有益な糸状菌カビの1つであり、マツタケ、ショウロ、トリュフ等のキノコ類も菌根菌です。それらの中でも4億6千万年前から現在まで生きているアーバスキュラー菌根菌(AMF)はほぼ全ての植物と共生するので、菌糸で土中に強大な菌糸ネットワークを形成し、効率的に土中の養水分を植物に運んだり、植物同士の養水分の分配等に貢献しています。またセンチュウを駆除します。それゆえ、AMFは農業生産、環境保全等において特に重要な菌根菌なのです。

また、菌根薗には強い味方がいます。これが菌根菌胞子内部やその周辺に生息するパートナー細菌(PB)です。これらのPBは菌根菌の生長を助けるとともに、植物の病害虫防除効果、窒素固定能、リン溶解能等を持ち、植物の働きを助けます。その上、このPBは植物の生長に有益な効果を与えるだけでなく、私たちの健康や公衆衛生等にも貢献していることが分かリ始めてきました。

さらには、ナギナタガヤ、バヒアグラスのようなパートナー植物(PP)を活用することで、AMFやそのPBの増殖を助けるとともに、有機物の補給、土壌流亡防止効果、除草剤の不使用、病害虫防除効果、不耕起栽培の実現草の根やミミズで耕起等が期待されます。

3 財団の技術

(一財)日本菌根菌財団財団は、いろいろな特許技術等を保有していますが、それらの中の代表的なものとして、

  • 1 世界初の菌根菌の純粋培養技術
  • 2 菌根菌の見える化技術 世界初の菌根菌検査薬と携帯式蛍光顕微鏡の開発
  • 3 微生物や細胞小器官を分離できる世界初のクロマトグラフの開発
  • 4 植蔵: 世界初の AMF とその PB を活用した有機養液水耕栽培技術および有機養液土耕栽培技術

等が挙げられます。これらの新技術を活用して、土壌の生物環境を簡便に調査できる手法を確立するとともに、今後も先駆的で独創的な研究や技術開発を行っていきます。

菌根菌、特にAMFとそのPBを活用した事業化の例

AMFは全ての作物で効果を発揮しますので、化学合成農薬不使用で、化学肥料不使用あるいは大幅削減が図れ、安心・安全で持続可能な作物生産や環境緑化を実現できます。なお、アブラナ科、アカザ科作物等ではAMFが感染せず、利用できないと言われていますが、間違っています。改める必要があります。そこで、財団は様々な作物、様々な場所で、「菌根菌とそのPBを活用した安心・安全で持続可能な作物生産技術および緑化技術」を事業化しています。例えば、今、着目されている事業として、AMFは全ての作物で効果が出ていますので、化学合成農薬不使用で、化学肥料不使用あるいは大幅削減が図れ、安心・安全で持続可能な作物生産や環境緑化を実現できます。

そこで、財団は様々な作物、様々な場所で、「菌根菌とそのPBを活用した安心・安全で持続可能な作物生産技術および緑化技術」を事業化しています。

マカダミア等の有機果樹栽培

海外での実践例の一つ(JICAプロジェクト「ルワンダにおけるAMFとそのPBを活用した有機マカダミアナッツ生産」 => 約40 haの園で実施)。マカダミアでも、AMFとそのPBの活用で安定した有機栽培を実証できました。この実証園は農家が放棄していた劣悪な土地でしたが、むしろ化学合成農薬や化学肥料を用いた慣行栽培と比べて、AMFとPBを活用(自然の力を活用)した菌根菌農法の方が土地を改善する働きが優り、樹勢は旺盛となり、収量増加が見られ、果実品質も向上しました。

AMFとPBを活用した有機マカダミア園場

AMFおよびPBの接種がマカダミア実生苗の生育への影響

左側: 無接種区、右側: 接種区(接種後わずか10か月目には接ぎ木が可能な樹径サイズに生育しました。)

「植蔵」技術によるイチゴ等の有機水耕栽培

これまでの作物栽培をかえる世界初のAMFとPBを活用した有機養液水耕栽培および有機養液土耕栽培(特許出願中)の事業化。

AMFを接種したイチゴ苗を定植し、定期的にPB入り有機養液を散布。病害虫の発生が全くみられず、かつ施肥量も慣行栽培の1/4-1/3に大幅に減らすことが可能です。

有機栽培早生日本桐「ジャパロニア」の生産

財団では橋本理事が見いだした生育の大変早い日本桐(ジャパロニア: 品種登録出願済み。植栽後4~5年で直径40~45cmに成長。図1)の試験栽培を、中部電力株式会社の支援を受け実施しています。苗には、アーバスキュラー菌根菌(AMF)を事前に感染させ、苗の生長促進および根の活着率向上を狙っています。

2022年5月24日、財団が借り受けたほ場(約1300㎡)に79本のジャパロニアの苗を植え付けました。苗は25cm前後の大きさで、全部で79本です(図2)。中部電力株式会社の方々、地元自治体の方々、財団関係者約25名に参加いただきました。

図1 早生日本桐「ジャパロニア」の年輪

図2 早生日本桐「ジャパロニア」の苗(5月24日)

植え付け(図3)後の1週間は、毎日、土壌に潅水し、地上部は財団が開発したパートナー細菌入り有機液肥150-200倍液を葉面散布しました(図4)。パートナー細菌は、1)菌根菌の生長促進、2)窒素固定能、3)リン溶解能、4)有機物分解促進、5)病害虫防除、などの効果を持っています。

図3 植え付け後の全景

図4 パートナー細菌入り有機液肥

植え付けからほぼ1か月後には30 cm前後に(図5)、2か月で大きなものは150 cmほどに育っています(図6)。

図5 植え付け約1か月後の苗(6月20日)

図6 植え付け約2か月後の苗(7月25日)

この間カミキリムシの被害をうけた苗(図7)が数本あったため、手当て(図8)および被害防止の措置をしました。被害防止にはボーベリア菌を染みこませた不織布テープ(出光興産)を巻きました(図9)。カミキリムシがこのテープに触れるとカミキリムシの足から全身にカビが生えて死んでしまいます。

図7 カミキリムシの被害

カミキリムシで倒れた苗や穴のあいた苗が数本見られました(7月28日頃)

図8 カミキリムシによる傷口の手当て

傷口にはペースト状に溶かした財団開発の植物オイルを用いた植物保護剤を塗布した後、テープで保護しました。

図9 不織布テープ(白いテープ)

カミキリムシにやられて折れた苗も、台切りをすると再生してきます(図10および11)。

図10 台切りした苗(7月23日)

図11 再生した苗(8月上旬)

8月13日、台風8号が試験ほ場を直撃し、22本の苗が被害を受けました(図12および13)。被害を受けた22本のうち、完全に倒れたのは2本、他は傾きながらも持ちこたえました。22本には支えのポールを立てて直立させました。その結果、全部の木が無事に復活しました。

図12 台風の影響を受けた圃場

図13 台風で倒れた苗

8月25日には全79本の内1割の8本を測定しました。樹高は平均で167 cmとなっていました。5月24日の植え付けから約3か月で7倍から8倍に生長していて、その早さには驚きました。全部の中で最も大きなものは、3 mに達していました。8月27日、節のない良い用材となるよう枝打ちを行いました(図14および15)。

定植約4か月後(10月上旬)で、樹高は約4 m(図16)、定植約6か月後(11月中旬)で、約5 mになりました。

図14 枝打ち前の苗

図15 枝打ち後の苗。既に2m近い大きさです。

図16 早生日本桐「ジャパロニア」の旺盛な生育(定植約4か月後)

早生日本桐「ジャパロニア」の生育と材の利用についてはこちらからダウンロードできます。

松枯れの防止と再生

菌根菌(ショウロとAMFの同時感染を利用)とそのPB等を活用した、有機栽培技術でクロマツ枯れの防止を図っています。さらには高級食材であるショウロの生産による地域の活性化も狙っています。なお、この事業は、中部電力、掛川市、静岡県中遠農林事務所との共同で行われています。

菌根菌(ショウロとAMF)を接種したクロマツの植栽地(掛川市弁財天)(定植約1年後撮影)

有機栽培茶の生産

2022年5月24日の調査: AMF区では一番茶収穫後の芽出しが、対照区と比べて非常に良かったです。また、対照区では炭疽病の発生がかなりみられましたが、AMF区ではその発生が極めて少なかったです。AMF区では胞子数が非常に多かったので、PBの効果が出たものと思われます。

なお、注意事項として、有機JAS認証の農薬「ボルドー剤」は炭疽病の防除に使われていますが、AMFの生長を著しく阻害するので、使用禁止とすることが望まれます。

左: AMF区、右: 対照区

有機栽培米の生産

金根米として販売しています。

有機栽培サツマイモの生産

この技術で現在、深刻な問題となっているサツマイモ基腐病菌を完全に駆除することができます。

屋内外・壁面緑化

観葉植物、シバの利用